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昆布締めステーキ、山葵、カベルネ・シラーズ

Posted on:February 11, 2023 at 03:00 AM

和食とワインは合わないというのが通説であるが、現実世界の全てがそうであるように、例外を見つけた。今回紹介するのは昆布締めステーキであり、和食というカテゴリーからは少し外れたものではある。この昆布締めステーキと赤ワインとの組み合わせに至った経緯と背景には、和食とワインとの組み合わせで奇妙な出会いを見出したことが関係する。これは新たなペアリングやマリアージュを発見する大きな糸口となっているであろう。

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昆布締めステーキは美味しい

昆布締めされた牛肉はとても美味しい。スーパーに売ってある安いお肉も、昆布締めされることによって、その価値が数倍になる。そのような昆布締めというのは、どのような調理方法なのか。昆布締め、という名前からわかるように、魚や肉などを昆布で締めることである。醤油や酒で柔らかくした昆布を魚や肉に巻きつけ、冷暗所で一晩寝かす。これだけである。これだけで素材はより美味しくなる。これによりうまくなる理由は2つある。1つは、水分が抜けて身が引き締まったことによる。もう1つは、昆布のグルタミン酸と肉類のイノシン酸が合わさり、相乗効果でより旨みを感じるようになったから。イノシン酸とグルタミン酸との相乗効果はレシピの中によく見られ、例えば、鍋物に白菜がよく使われるのは、白菜のグルタミン酸と肉や魚のイノシン酸との相乗効果である。

なぜ、昆布締めされたステーキが美味しくなるのか。上記のように化学的な説明もつくが、ただ上記とは別に、一般論と大原則を話しておくと、肉料理を美味しくするのは、素材や調理方法よりも、その調理にかけた丁寧さによるところがある。青木潤太朗・森山慎(2022)『鍋に弾丸を受けながら 2』角川書店の第9話において、ブラジル人のロドリゴ氏が作ったステーキは主人公にとって「人生最高のステーキ」(p. 94)であった。なぜそれほど美味しかったのか。それはロドリゴ氏が、丁寧に薪を選び、丁寧にトリミングし、持てる経験を持って真剣に調理したからである。筆者も体験したことがある上、読者諸氏も体験されたことがあるだろうが、焼肉屋でとてもうまく焼く人がいるが、なぜ彼らが焼くとうまいのかは彼らが持てる経験を全て用いて丁寧に焼いているからに他ならない。丁寧さは全てに勝る。

話を昆布締めに戻す。昆布締めをした肉をステーキにするとなると、通常の調理よりも注意が要される。というのも、水分が抜けており、火加減と火にかける時間がよりシビアになるからである。筆者も、何度も失敗し、やっと感覚を身につけられるようになってきた。昆布締めしたことにより、脂身や筋がより際立つので、事前に処理しておかないと、片手落ちになってしまう。昆布締めという時間的な準備とは別に、調理前の下処理や火にかける時の注意、これらの丁寧さにより昆布締めステーキは真に美味しくなる。

このように調理をした昆布締めステーキには、ステーキソースをかけ、飲み物にはラガー系のような辛さと苦味がしっかりあるビールかアップルなどの果実系の強いクラフトビールと一緒に愉しむ、というのが少し前までの私の常であった。そして、当時はワインと合わせることを考えていなかった。むしろ合わないと思い込み、避けていた。しかし、それは思い込みであることが分かり、合わせるものが大きく転換する出来事があった。

ワインと和食が合わないと言われている理由とそれに対する反例

なぜワインと和食が合わないと言われているのか。もちろん甲州などは別であるが。例えば、特に赤ワインと相性が悪いと言われている。筆者は実際に、赤ワインとうにの中巻を組み合わせたことがある。これは合わなかった。その時合わなかった理由には以下の要素が考えられる。 赤ワインにより、うにの磯臭さが強く出てしまったこと 酢飯の酸味と赤ワインの酸味が喧嘩してしまっていること 明らかであるが、これらの特徴からするとワインと和食は合わないことが察せられるだろう。ウニがコメとの相性が良い分にとても残念である。しかしながら、これは合わないことの一例でしかないことが判明する出来事があった。ウニの細巻きとブルガリアの赤ワイン。まさにマリアージュであった。

そのブルガリアの赤ワインは、カタルジーナのショパン・バラードであり、これはカベルネとシラーのブレンデッドワインであった。この赤ワインとウニの細巻き、これらの相性はなぜよかったのか。1つはウニの巻物が細巻きであることにより、上述の合わなかった理由の2つ目に当たる、酢飯の酸味が抑えられたことが考えられる。この投稿においてはそれ以外の要素、つまり、今回の赤ワインの特徴と、ウニの細巻きに含まれていたもの、これらに着目する。

第一に、今回の赤ワインの特徴として、独特の乳酸感があったことが挙げられる。これは赤ワインらしい酸味とは違っており、これが酢飯の酸味とマッチしている可能性がある。さらに、タンニンが口内に残らずのびやかさとしなやかさを感じられた。これは強い香りと相性がよく、カビの香りの強いチーズともマッチしており、和食特有の強い香りとも相性がよかったのだろう。

次に、今回試した細巻きと前回試した中巻きと決定的に違った要素は、山葵である。上述の合わなかった理由の1つ目のウニの磯臭さを山葵が消したのである。いや、消したのではない。確かに磯の香りはあった。むしろ、磯の香りと赤ワインの香りとの間を、山葵が取り持ったのである。

山葵という仲介者による大きな転換

以上の体験から、昆布締めステーキに関して、私は大きな方針転換をせざるをえなかった。以前は、昆布締めステーキには、ステーキソースとビールだった。これ以降は、山葵醤油とカベルネとシラーのブレンデッドワイン、となった。すぐ転換することができた理由はあり、それは昆布締めステーキには課題があったからだ。昆布締めステーキの課題は、昆布を長いこと肉に触れさせることにより、昆布の香り、悪く言えば磯臭さがどうしても肉に付着してしまうことだ。これを打ち消すためにそれまでは強い香りや苦味があるステーキソースやビールを合わせていた。しかし、上述の体験からの完全な類推であり成功するかの確信は得られないが、山葵醤油とカベルネとシラーのブレンデッドワイン、これが昆布締めステーキの課題を克服し新たなマッチを提示してくれるのではなかろうか、と思い立った。実際に試したところ、完全なマリアージュとなった。ウニの細巻きの時と同様に、昆布の磯臭さは香りとなり、昆布や醤油といった和食の強い香りはまろやかになっていた。

このマリアージュは山葵とブレンデッドワイン、どちらの功績によるのだろうか。筆者はこれ以上分解・分析することはせず、両者によるものと判断を下した。そこにあることは確かである。

さて、長いこと書いてしまったが、以上が私の体験と実験と見解である。もしこの文章を読んで興味を持たれた方は、和食と赤ワインが合わないという先入観を捨て、まずは上記のペアリングを試してみていただきたい。そして、新たなペアリングに気づかれたり、合わないケースを見つけられたら、ぜひ共有していただきたい。大いなる発見は小さな感動の丁寧な積み重ねによるものであるから。

それでは。故郷に。

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